Scratch Line

伊都工平 公式blog

ここはライトノベル作家・伊都工平が、その場の思いつきをいろいろメモったりするブログです。

ライトノベルの書き方

より自由な章設計

 今回のこの『書き方』はゼロスタートを前提にしていますが、もう少し具体的に作品イメージを持っている場合は章の立て方を変えるべきですので、その方法を書いてみたいと思います。

 
○イメージボード作り
 まず頭の中にある『こういう感じが実現されるから面白い』というのを、一旦思いつくままに書きだしてみてください(紙の上に走り書きするぐらいの感じで構いません)。
 次に、そのイメージボードに書きこんだ各要素が、本の中で何回繰り返されることなのか? 一冊、一話、一章の、どの構造を埋める要素なのか? を確認します。
 例えば『巨悪を倒す』なら一冊丸々使うでしょうし、『仲間が集う』なら各話ごとに一人ずつ仲間が増える話が――3つくらいほしいかもしれません。『徹底的にラブコメをやる』なら、毎章ごとにその展開を出した方がいいと思います。
 全てを具体的にする必要はありませんが、イメージを実現すると何話何章の構成になるかを割り出してください。

 
○予想ページ数の計算
 全体の構成が決まったら、予想ページ数を仮計算します。
 一本の起承転結につき8pかかる前提で、計算してみてください(参考:文庫本一冊分のページイメージ)。
 もちろん、1つの要素を実現するのに起承転結が二本以上必要な場合もありますので、そのあたりも注意しましょう。
 単純な繰り返し展開だとして、ザッとこんな式になります。
  (一冊単位での起承転結の数+一話単位での起承転結の数×話数+一章単位での起承転結の数×章数)×8p=?
 

○要素の調整
 計算してみたページ数が完成目標ページ数の70%を越えていたら、要素が多すぎます。
 イメージボードに戻り、あなたが書きたい本の『面白さ』にとって、重要度が低い要素から切っていきましょう。(意外に面白さと直結しない、ただのつじつま合わせでページを浪費しようとしていたりするものです)
 もしくは話数や章数を減らすことを検討してみてください。
 
 いきなりちょっと大変ですが、ここで折り合いがつかないと結局、完成してから削ることになります。
 この『完成してからの削除』は、道連れ的に不完全な起承転結を大量発生させ、作品のクオリティに大打撃を与えますので、この時点で絞りこんでおいてください。
 要素を減らして魅力が減った分は「残した要素のネタクオリティーでカバーする!」ぐらいのつもりで、どんどん刈りこんでいきましょう。

 
○イメージボードの再構築
 折り合いがついたら、削った要素が存在しない状態で、再びイメージボードを書いてみます。
 それでも面白さは損なわれていない、ということになれば調整は完了です。

 各話レベルまでの起承転結展開のうち、まだ未定のものを出します。
 最後にそれをストーリー順にまとめたものが、その作品のプロットということになります。

全体作業の進め方(通常伏線と逆行伏線の張り方)

 ここで紹介している書き方は、『作業範囲の限定』と『後回し』により、集中力アップと作業スピードの向上、アイデアのクオリティアップを目指しています。
 例えば、第一話執筆中に第二話のいいアイデアを思いつく場合がありますが、今できない作業について考えても仕方がありません。今できないことはどんどんメモを取って後回しにし、目の前の作業だけをこなしすことに集中します。
 その作業を混乱せずに行なう具体的な方法を、以下に説明します。

 
○テキスト構造の作り方
 まず『章の立て方』までが終わった段階で、今後の作業スケジュールに合わせて、以下のような項目をテキストファイル上に作ります。


◎第一話執筆
◎第一話推敲作業一回目
◎第一話推敲作業二回目
◎第二話執筆
◎第二話推敲作業一回目
◎第二話推敲作業二回目
◎第三話執筆
◎第三話推敲作業一回目
◎第三話推敲作業二回目
◎全体推敲一回目
◎全体推敲二回目
◎印刷見直し
 
 ここに、もうすでにあるプロットを各話ごとに分割して配置します。
 そして『実際の執筆』に書いた手順で、まずは章ごとの起承転結を出し、文章繋ぎの作業までを行なっていきます。


○作業の進め方
 『第一話執筆』の作業中に出た課題は、『第一話推敲作業一回目』にどんどん書きこんでください。順序を気にする必要はありません。書きこんだら、あとは頭の中から追い出します。
 もしもいま作業を行なっている第一話についてではなく、第二話や第三話に関する新たな課題やいいアイデアを思いついた場合は、『第二話執筆』の項目、『第三話執筆』の項目に書きこんでください。そしてこれらも同様に、頭の中から追い出します。


[第一話執筆開始時点]
◎第一話執筆
   <最初に作ったプロットの第一話分を配置
◎第一話推敲作業一回目
   <第一話執筆作業中に出てきた第一話課題をここに追加
◎第一話推敲作業二回目
◎第二話執筆
   <第一話執筆作業中に出てきた第二話課題をここに追加
   <最初に作ったプロットの第二話分を配置
◎第二話推敲作業一回目
◎第二話推敲作業二回目
◎第三話執筆
   <第一話執筆作業中に出てきた第三話課題をここに追加
   <最初に作ったプロットの第三話分を配置
◎第三話推敲作業一回目
◎第三話推敲作業二回目
◎全体推敲一回目
◎全体推敲二回目
◎印刷見直し


 この作業中、ある出来事について一冊全体に影響の出るような、一連の伏線を思いついたとします。
 その場合は、第一話の範囲については作業中に処理するか『第一話推敲作業一回目』に必要な作業をメモしてください。
 第二話分、第三話分はアイデアの時と同じように、『第二話執筆』『第三話執筆』の項目にそれぞれ必要な情報を書きこみます。
 通常の伏線は、このようにして実現できます。

 作業を進めていき『第一話執筆』がクリアできたら、完成した本文は『第一話推敲作業一回目』の項目に移動します。そして空っぽになった『第一話執筆』の項目を消去してください。

 作業は引き続き、『推敲の進め方』に従って行なっていきます。
 これも完了(2周分)したら、完成した第一話本文と、解決しきれなかった第一話課題は『全体推敲一回目』にまとめて移動します。そして第一話に関する項目は全て消去してください。
 以降、第一話のことは頭から完全に追い出し、独立した話として第二話の作業に移っていきます。
 第一話の作業中に出た課題をクリアし、修正を反映してから、第二話本文の執筆に取りかかってください。

○逆行作業の実現の仕方
 先ほど『伏線はこのようにして実現できる』と書きましたが、実際は伏線は『結論ありき』のもので、文章の後ろから前に向かってデータを配置していく、という順序で作ることになる場合がほとんどです。
 
 そこで例えば、『第二話執筆』の終盤まぎわで、第一話に張りたい伏線を思いついたとします。
 この場合、通常ならば、該当箇所までテキストを遡り、すでに完成している文章を崩しながら目的の情報をねじ込む作業を行なうことになります。
 しかしこれは意外に厄介な作業で、目的の数行をねじ込めばお終いではなく、周囲の文章とのバランスがとれているかも考えねばならず、判断し実行するのに意外と時間がかかります。
 そうなると今度は第二話の執筆に対する集中力が途切れ、作業が停滞していくことになります。
 
 そこで、こういった物語を遡る逆行作業は、アイデアや指示だけメモして『全体推敲一回目』に全て放りこみ、やったことにしてしまいます。
 

[第二話執筆開始時点]
◎第二話執筆
   <第一話執筆作業中に出てきた第二話課題
   <最初に作ったプロットの第二話分を配置

◎第二話推敲作業一回目
   <第二話執筆作業中に出てきた第二話課題をここに追加
◎第二話推敲作業二回目
◎第三話執筆
   <第二話執筆作業中に出てきた第三話課題をここに追加
   <第一話執筆作業中に出てきた第三話課題
   <最初に作ったプロットの第三話分を配置

◎第三話推敲作業一回目
◎第三話推敲作業二回目
◎全体推敲一回目
   <第二話執筆作業中に出てきた第一話課題をここに追加(逆行作業)
   <第一話推敲終了までに解決できなかった第一話課題
   <完成した第一話を配置
◎全体推敲二回目
◎印刷見直し


 第二話作業中はあくまで第二話だけの作業を行ない、完成させてしまいます。
 第三話も同様に、あくまで独立したものとして完成させてしまいます。


[第三話執筆開始時点]
◎第三話執筆
   <第二話執筆作業中に出てきた第三話課題
   <第一話執筆作業中に出てきた第三話課題
   <最初に作ったプロットの第三話分を配置

◎第三話推敲作業一回目
   <第三話執筆作業中に出てきた第三話課題をここに追加
◎第三話推敲作業二回目
◎全体推敲一回目
   <第三話執筆作業中に出てきた第二話課題をここに追加(逆行作業)
   <第三話執筆作業中に出てきた第一話課題をここに追加(逆行作業)
   <第二話推敲終了までに解決できなかった第二話課題
   <第二話執筆作業中に出てきた第一話課題(逆行作業)
   <第一話推敲終了までに解決できなかった第一話課題
   <完成した第一話を配置
   <完成した第二話を配置
◎全体推敲二回目
◎印刷見直し


 本文が第三話まで全て完成した段階で、『全体推敲一回目』に積んできた、これまでの課題をまとめて解決します。


[全体推敲開始時点]
◎全体推敲一回目
   <第三話推敲終了までに解決できなかった第三話課題
   <第三話執筆作業中に出てきた第二話課題(逆行作業)
   <第三話執筆作業中に出てきた第一話課題(逆行作業)
   <第二話推敲終了までに解決できなかった第二話課題
   <第二話執筆作業中に出てきた第一話課題(逆行作業)
   <第一話推敲終了までに解決できなかった第一話課題
   <完成した第一話を配置
   <完成した第二話を配置
   <完成した第三話を配置
◎全体推敲二回目
   <全体推敲一回目作業中に出てきた課題をここに追加
◎印刷見直し


 この課題については最初に出してからずいぶん時間がたっていますし、また本文全体が書きあがって内容が確定していますので、それほど苦労せず解決アイデアを出せると思います。
 また逆に、全ての修正案を並べてみると、意外と必要のない修正があることにも気づくでしょう。
 ともあれ、課題を全て解決し、実際に行なう修正の方針を固めてください。
 そしてこれまでの推敲作業と同様に、必要な情報を本文の該当箇所に並べます。さらに頭から文章を直していってください。
 
 この作業により、例えば第三話から第二話と第一話に向けて伏線を張るような逆行作業も、無理なく実現することができるようになります。

ストーリーラインの相互乗り入れ効果

 まず物語というのは、書いた人の思いつきでしかないカオスな話を作ってはいけないことを大前提とします。
 しかしそれは逆に言うと、すでに読者が知っている話しか書いてはいけないことを意味します。
 もちろん読む前から結末を知っているお話を読んで、面白いはずがありません。
 
 しかしこの『すでに知られている物語』も、2本組みあわさっていると状況が変わります。
 例えば前フリとオチが
 
 A→A’
 B→B’
 
 となっているよく知られている物語を、
 A→B→A’→B’
 という順に組みあわせると、
 
 A→B’
 B→A’
 
 という新たな読み方ができる可能性が出てくるわけです。
 つまり読者はよく知っている話を読んでいたはずなのに、予想外のオチがやって来た、という状況に遭遇することになります。しかもそのオチ自体にも前フリがあるので、誰もが納得できる状態になっています。
 
 
 ちなみに物語が2本の場合は、上にもある通り
 従来の読み方=2通り
 新たな読み方=2通り
 になりますが、物語3本を組みあわせると、
 従来の読み方=3通り
 新たな読み方=6通り
 となります。
 
 こうなると自然発生する『新たな読み方』が従来の読み方の倍になり、ちょっとした不思議なお話という雰囲気を帯びてきます。
 
 それと同時に作者は密かに、Aというフリに対して、B’という驚きのオチを持ってくることを計画することになります。
 しかしその時に物語が2本しかないと、驚きのオチに直接繋がる前フリの話をした段階で、カンのいい人には作者の意図が読めてしまいます。
 そこでダミーの物語をもう1本入れ、3本とするわけです。
 例えば
 A→B→C→A’→C’→B’
 とすると、読者にはC’とB’のどちらが作者の書きたいオチなのか、最後まで判断することができなくなります。
 これにより、読者の物語への興味を最後まで持続させることができるわけです。
 
 
 もちろん物語の本数は4本、5本と増やしていくことも可能です。そのたびに物語は結末の読めない、さらに複雑なものになっていきます。
 ただし見せたいものが結局『フリ』と『意外なオチ』の2つだとすると、4本目以降の物語は雑情報とあまり変わりがありません。また、読者のついていける複雑さには限界がありますし、ページ数にも限度があります。
 3本でキッチリと勝負した方が、より完成度の高い物語になるかと思います。
 
 一方で逆に、あえて2本で勝負して、ミエミエの大逆転を目指す場合もあります。
 これがいわゆる『王道』『お約束』と呼ばれるもので、全体をコンパクトにすることができるため、リソース(ページ数や読者の集中力)を他に回すことができます。
 ただしこの場合も2本の物語であることを意識してください(つまり前フリを2つ準備する)。それが『お約束』をうまく成功させるためのコツになります。

なぜ企画はニコイチでプロットはサンコイチなのか?

 結論から言うと、
 企画は相手に意図が伝わらなければ意味が無く、
 物語は相手に見透かされると意味がないからです。
 
 
 例えば『あんパン』を、ニコイチネームのついた『企画』として考えてみます。
 これは『あん』と『パン』があることは確定で、どういう関係性なのかについてのみ不明です。
 『あん』が『パン』の中にあるのか? 外を包むのか? 上にのるのか?
 不明ではあるのですが、しかし、実際には数通りの可能性しかありません。
 従って名前と実際の品物が、それほど誤解なく相手に伝わります。
 
 しかしではこれが、『あん・クリーム・チョコクリーム・パン』になるとどうでしょうか。
 関係性の数は爆発的に増えてしまい、その結果これは『何だかよく分からないもの』として認識されることになります。『全部相手に説明しないと、相手が理解できないもの』になってしまっているわけです。
 
 そしてこの2つが店に置いてあった場合、お客がお金を出してどちらを買うかといえば、おいしさとは関係なしに、満足感やリスクの予想が立てやすい『あんパン』の方、ということになります。
 もちろん何人かの物好きはいると思いますが、最終的には圧倒的な差がつきます。
 結局、その商品の価値を明確に伝えられることが、まず第一に重要なこととなります。
 
 

 ですがこれが物語についてとなると、状況が全く変わってしまいます。
 つまり要素が少なく明確であると『全部相手に説明する機会』が失われてしまうことになります。その結果、物語は物語としてではなく、単なる要素の組みあわせとして、あっという間に消費されてしまいます。
 
 このような状況を避けるため作者は、読者に購入決定を促す企画やタイトルについてはニコイチに、物語自体はサンコイチにして、『購入価値は分かりやすく、内容は一口で説明できないもの』を目指すことになります。
 
 
 これに加え、プロットをサンコイチにするのには、もう一つ別の理由があります。

この執筆方法の特徴

 文章を書くという作業は本来、特別な方法を必要としません。
 アイデアを出して本文を書き、推敲すれば完成します。
 文庫一冊は400字詰め原稿用紙で400枚ほどですが、それでもやらなければならないことに違いはありません。
 
 しかし実際にはノープランで執筆を開始してしまうと、様々な理由で頓挫することになります。
 その究極的な原因は、『アイデアは出すのに一定の時間がかかる』という現実があるからです。
 
 例えば、本一冊分のアイデアを全て出すのには、膨大な時間がかかってしまいます。そのためにいつまでたっても準備が終わらず、書き始めることができない、という状況がまず起こりえます。
 また本文をようやく書き始めても、改めて準備段階では思いつかなかった問題が次々と浮上します。
 そしてなお厄介なのは、現在の作業に全く関係のない『素晴らしいアイデア』が次々と浮んできてしまうことです。
 やがて原稿は50ページを過ぎた辺りで、未解決の問題と反映されないグッドアイデアが山積みとなり、執筆作業が頓挫してしまう、というわけです。
 仮に全てを振りきって最初の準備通りにどうにか原稿を完成させたとしても、結局それはあなたにとって、何だか納得のいかない作品になってしまうでしょう。
 
 そこでここでは、『どのようにしてこのタイムラグを攻略するか?』『効率よく、ストレスなく大量の文章を執筆するにはどうしたらいいか?』に焦点を絞って解説を行なっていきます。
 
 具体的には、アイデアを思いついた順にプロットとして本文に組みこんでいき、推敲を行なう――これを短期間で何度も繰り返しながら作品を完成させるという方法になります。
 この方法の最大の利点は、発生した課題も解決方法も、すぐさま本文に反映していくことができるということです。そのため問題の積み残しを最小限に抑えることができ、情報的な混乱を防ぐことができます。
 
 これは言い換えると、今まで作品を完成させてきたことのある人でも、より短時間で、さらに複雑な物語の作成に挑戦できるということでもあります。
 
 また一方で、まとまった時間を確保しにくい兼業作家などを目指す人などにとっても、最適な方法となるのではないかと思います。
プロフィール

伊都工平

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